オンライン診療システムの導入に関する調査データから考える、デジタル医療の今後
新型コロナウイルス(COVID-19)感染症を追い風に普及の進むオンライン診療システムの現状と課題、そして今後とは?
当面の間延長することが決まった、電話・オンライン診療の特例措置。緊急・臨時的な対応であるこの電話・オンライン診療の措置について、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染収束後もどのような方針の下で医療機関は導入・運用を考えればよいのか?が注目されていることと思います。
そこで、これまでに出されてきた各所の調査レポートをまとめてみました。様々な角度からオンライン診療の現状と課題を見直し、今後のアクションプランを検討してみたいと思います。
官公庁・リサーチ企業・医療メディア、コンサルティングファームなどの調査まとめ
下記、2020年8月27日現在までで総論的な調査をされているデータをまとめてみました。
令和元年度オンライン診療の普及促進に向けたモデル構築にかかる調査研究(総務省)
※調査対象:患者(63名)、業者(5社)、病院・診療所(7施設)
- オンライン診療受診後の感想としては、全体的に満足度が高い結果であった。また、フィールドの特性によらず、特に「医師と問題なくコミュニケーションが取れた」に対して「とてもそう思う」の回答が多かった(63名中43名)
- オンライン診療受診後のオンライン診療の満足度はフィールド特性によらず「大変満足」または「概ね満足」が多く(63名中54名)、全体的に満足度は高かった。
- 対面診療と比較したオンライン診療の満足度は、3フィールドとも傾向は変わらず「対面診療と変わらない」が最も多く(63名中29名)、次いで「オンライン診療のほうが良い」の回答が多く(63名中12名)、その後「対面診療のほうが良い」の回答(63名中11名)であった。
オンライン診療についての現状整理(日本医師会総合政策研究機構)
※調査対象:各種調査レポート(レビュー論文)
新型コロナウイルス感染拡大における医院運営への影響とその対策について(「ドクターズ・ファイル」株式会社ギミック)
※調査対象:病院・診療所の医師(119名)
- 新型コロナウイルス感染拡大により、9割以上が「医院経営に影響を受けた」と回答
- 2020年4月の患者受診数の変化について、「影響を受けた」と回答した方のうち、約半数が昨対比「2~3割減」と回答
- 院内の感染対策について、98.3%が「全スタッフのマスク着用」を実施していると回答。次いで95.8%が「院内の消毒徹底・強化」、77.3%が「受付での検温・問診の実施」と回答
- 院内の感染対策について、歯科に比べて医科の開業医から多く寄せられた声は「発熱患者の受付・待合分離」(医科の約7割)。医科に比べて歯科の開業医から多く寄せられた声は「同時受診患者数の制限」(歯科の約9割)
- 「電話・オンライン診療」の導入率について、44.5%が「導入している」と回答
「コロナ禍での国内医療機関への通院状況・オンライン診療の活用状況」に関するアンケート調査結果(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社)
※調査対象:患者(5,000名)、病院・診療所の医師(229名)
- 約半数の48%の患者の方々がCOVID-19影響により「なるべく通院は控えたい」と認識
- COVID-19による医療機関への通院頻度について、定期通院患者の約23%が「減少」している
- 週1回以上通院する患者の約43%は通院頻度が減ったと回答
- 通院頻度が減ったと回答した患者の約69%は外出自粛や院内感染への恐れが主な理由で通院を控えている
- 「電話再診」「遠隔健康医療相談」「オンライン受診勧奨」「オンライン診療」のうち、「オンライン診療」の認知されている割合が最も高い
- オンライン診療へ患者が最も期待しているものは「医療機関における感染防止」「自宅での診療ニーズ」への対応
電話・オンライン診療に関する調査(株式会社クロス・マーケティング)
※調査対象:患者(1,100名)
- オンライン診療を【今後受けてみたい】人は4割弱
- オンライン診療を【今後も受けないと思う】人は6割
- 電話・オンライン診療の不安点や気になることは、「診断できる範囲がわからない」「正確な診察・診断をしてもらえるか不安」といった診断・診察範囲への不安が大きい
- 電話・オンライン診療を【受けたことはないが、今後受けてみたい人】では、「受診方法/料金体系」や「かかりつけの病院が診療をしているかわからない」といった、受診のためのより具体的なステップに不安がある様子
医療機関の現状と最前線で働く医師の本音についてアンケート調査(「Dr.転職なび」「Dr.アルなび」を運営する株式会社エムステージ)
※調査対象:病院・診療所の医師(180名)
- 医療機関でのマスク不足はいまだに深刻で、回答者180名のうち149名がマスク不足を訴えました。
- オンライン診療をすでに「利用している」のは7%、「利用を検討している」のは32%、「利用予定はない」のが55%でした。
- 初診からオンライン診療が解禁になったことについて、50%が賛成、19%が反対、31%がどちらでもないと回答しました。
- 初診解禁のメリットとしては「ウイルス感染予防」の回答が最も多く、その他「受診の利便性が高まる」「医療従事者の負担軽減につながる」などがありました。
- デメリットとしては「誤診や症状などの見落としの可能性が出てしまう」が多く、その他「導入時のコスト」「高齢者には利用しにくいのでは」などがありました。
- 患者さんにオンライン診療を利用してほしいかの問いには「はい」の回答が4分の3を占め、特に現在の新型コロナウイルス感染症拡大の状況下において、積極的に利用してほしいという声が多数でした。
- 本状況下で医師が患者さんへ求めることは「手洗い・うがいなど感染予防の徹底」「不要不急の外出を控え感染を予防すること」「医療従事者への根拠のない差別をしないこと」「症状が軽度の場合は自宅療養をすること」などあがりました。
オンライン診療の特例措置、どう思う?-オンライン診療の特例措置、恒常化の是非、意見二分(医療維新 株式会社m3.com)
※対象:m3.com会員(開業医:180人/勤務医:595人/歯科医師:7人/看護師:25人/薬剤師:293人/その他の医療従事者:66人)
- Q:新型コロナウイルス感染収束後も、現在特例として認められている事項について解禁し、恒常化するべきだと思いますか。
A:医師全体で見ると「(恒常化するべきだと)思う」が37.4%、「思わない」が32.6%と意見がわかれる結果となった。また、開業医では「思う」の回答が最も多かったのに対し、勤務医では「思わない」の回答が最も多く、開業医と勤務医でも異なる結果となった。 Q:特例措置において「初診における麻薬および向精神薬の処方」「基礎疾患の情報が把握できない場合の8日以上の処方」「ハイリスク薬の処方」が禁止されていますが、この禁止事項について適切だと思いますか。
A:「適切だ」が医師全体の62.6%を占め、「適切ではない」を大きく上回る結果となった。
オンライン診療システムの現状と課題
本来の理想像は、医療格差のある地域などでの高齢者・子育て世帯・希少疾患患者の医療の均てん化
そもそもは、地域によって差異のある医療提供体制の均てん化という役割をオンライン診療は求められていたはずです。パソコンやスマートフォンなどの端末の取り扱いが十分でない人たちのためには何らかの支援補助対策が必要であり、そのようなヘルプ・サポートを含めた医療の提供が今後も必要となるでしょう。このような領域の議論の基点となるだけの実績が徐々に出来てきているのではないでしょうか。
無論、COVID-19下における感染対策の徹底にもこうした遠隔医療は一定の意義があると考えますが、しかし新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染収束後も残る社会的意義とは〝生活している場所が理由で、受けたい医療が受けられない〟——生命維持と生活の質の保持を損ねかねない機会の不平等という問題を解決してくれることだと思います。
COVID-19下という緊急事態に、オンライン診療を体験されたことのある方の人数が、医療格差という領域にスポットライトの当たるような閾値を超えるだけの絶対数に届きつつある――という事実に、一定の意義があると考えます。
経営面における投資対効果の低さ
保険点数については、しかし電話・オンライン診療は依然として対面のそれとは差別化が図られています(※後述の事実がその理由でしょう)。保険点数も、common diseaseを事例とするならば既存の対面診療の1/3~1/2という水準に留まります。
オンライン診療システム導入に係る費用・労力に対するリターンとして医療収益が十分に上がるのかどうかは、3~5年の減価償却ペースを見ないとなかなか判断の付かないところもあります。
いつ、何の目的で、どのような目標の下で導入するのか…というポイントを念頭に置かねば、「費用を掛けて入れたのに・・・」という事態になりかねません。
依然として残る、対面診療の価値と安全性の意義
しかしやはり診断をする普段の診療では、医師としての業務における治療方針の原則を十分に満たす医療ではないと考えられます。
患者さん・ご家族の雰囲気・空気間がつかめない分、トラブルリスクは高く、特に家族関係を含めた医療を提供する機会の多い診療科ではそのハードルとリスクは対面のそれとは大きく異なるものと考えます。
今後について
何はともあれ、あくまでも緊急・臨時的な対応であるこの電話・オンライン診療の特例措置。その社会的意義と医療における安全面・経営面の両立が標準化され図られるようになるまでは、各施設において試行錯誤が求められそうです。
また、国や地方行政の方針としても、それぞれの地域特性に合わせた医療提供について熟慮が求められるだろうと考えます。我が国のナショナルセンターでは「まずはセカンドオピニオン」という動き(国立精神・神経医療研究センター、国立成育医療研究センターのみがオンライン診療システムを導入)が見て取れますが、診療所・クリニックのようなレベルの施設ではこのような単価設定は困難で、やはり投資対効果の低さが課題となり何のアクションの取れないところも少なくありません。
昨今、各施設でオンライン診療の実施回数は徐々に増えており、オンライン診療の潜在ニーズ・顕在ニーズは低くはないことが伺えます。
医療格差の均てん化という理想像に近づけるため、それぞれの医療機関(それは診療所・クリニックから総合病院・大学病院・ナショナルセンターに至るまで)の提供する医療の姿がどのようなものであるべきかの追求はさらに続くことでしょう。
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