疾患啓発サイトの投資対効果を上げるグロースサイクルの考え方
作ること自体がゴールになってしまう疾患啓発サイトではなく、継続的なアップデートにより中長期的なコミュニケーションの一環として考えられたサイト運営を
サイトの目的のアップデートの必要性を感じながらも、医薬品・ヘルスケア企業としてプロモーションを掛けるべき時期が過ぎてしまうとなかなか予算を掛けられずに作りっぱなし、あるいは放置されてしまうこともある疾患啓発サイト。
今回はこの疾患啓発サイトの企業PR視点の位置づけ、投資対効果、そして社会的意義といった切り口からサイト運営のあり方を考えたいと思います。
投資対効果の高いメディアとしてのDTCオウンドメディア・疾患啓発サイト
疾患啓発サイトとはDTC(Direct to Consumer)の手段のひとつです。最初にDTC広告を行ったのはMSDであり、1981年に肺炎球菌ワクチンの広告を雑誌に掲載し、翌1982年には他の製薬企業も相次いでDTC広告を新聞や雑誌に掲載するようになりました。
製薬企業が自社の医療用医薬品に関連する特定の疾患に焦点を当て、結果として自社製品の処方につながるような情報発信をする取り組みの中で、オウンドメディアを持ちインターネット検索をする潜在顧客(≒潜在的な患者)の目にするところとするため、疾患啓発サイトは広まりました。
医療法、薬事法、医療広告ガイドラインといった法規制は欧米とは異なるため、日本にはDTCの起源となる米国と全く同じDTCは存在しないのが現状です(2020年現在)。
購買に結びつき易いのは、デジタル広告を目にした消費者よりオウンドメディアを目にした消費者。購買換算額にした場合デジタル広告に比較し、約3倍の効果を持つ。
【出典:Newswire | Trust in Advertising Paid Owned and Earned | Nielsen】
疾患啓発サイトは企業のオウンドメディアに該当します。こちらのニールセンの調査レポートにもある通り、オウンドメディアのマーケティング効果は有料のデジタル広告に掛ける予算の数倍の価値を持っているため、疾患啓発サイトは投資対効果の高い施策であると考えられます。
疾患啓発のゴール(KGI)とマイルストーン(KPI)をどこに置くべきか?
どのような情報発信であれ、成長モデルをイメージした上でグロースサイクルを定義し仮説検証を繰り返さなければなりません。何故ならば、仮説が無ければあらゆる取り組みを場当たり的な打ち上げ花火としてしまい、最悪投機的な費用が積みあがってしまうだけになってしまいます。
投機を投資とし、企業の情報資産をマーケティング資産として蓄積していくためには、成長モデルの設計が不可欠です。
ここにそのイメージ図を置いてみました。疾患啓発サイトですので、あくまで疾患の認知・理解がひとつのゴールとなります。がしかし、企業としては自社製品の処方につながることを期待している。そして、処方で終わってしまってはこの取り組みは行き止まりとなってしまうため、「誰かに」「何らかのかたちで」シェアされる必要があります。それは患者・ご家族起点で一般的なソーシャルメディアを介して知人・友人への広がりかもしれませんし、医療従事者起点で同業や他職種へのレクチャー・助言を介した広がりかもしれません。
一方で、企業として求めるだろう最終的なゴールである「持続的な自社製品の処方」は、その疾患・障がいの罹患率・罹患者数の平均値から算出される以上の市場規模になりえません。これを第一フェーズの終了と捉えるならば、ある程度の目標値を超えた後の第二・第三フェーズの成果目標を予め設計してロードマップを準備しておく必要があるでしょう。
様々なステークホルダーと共に疾患・障がいを中心とした生態系のようなPRネットワークを形成することで、企業のブランドはより伝わりやすく、残りやすくなることだろうと想像します。
疾患啓発サイトの機能・役割は〝営業支援〟から〝営業代行・マーケティング支援〟へ
また昨今、医療施設内でのMRによるセールス活動が診療への妨げとなること、待合室の患者さんたちへの印象悪化、患者のプライバシー情報遺漏の懸念などからMRの診療施設内への立ち入りが制限され、直接医師と面談する時間が大幅に減ってしまうという事情の流れから、製薬企業では営業であるMRの人員削減に向かっているところもあると聞きます。
企業によっては、医師限定のオウンドメディアだけでなく、薬剤師・看護師・助産師。その他コメディカル専門職向けのオウンドメディアを立ち上げ、それぞれのステークホルダーごとに専門的な情報群を揃えることで間接的に患者・ご家族との接点を持つ仕組みに投資をするところも出てきました。
現代は、営業支援から営業代行・マーケティング支援へと疾患啓発サイトの役割が変わっていく時代なのかもしれません。
ステークホルダーごとの現状分析とSEO・検索流入分析から導く〝永遠の目標〟の設計
そこで、ステークホルダーごとにどのようなニーズがあり、どのような価値を企業として提供できるのか?を5W1Hのようなフレームワークで検討すると、下記のとおりとなります。
いつ?:ライフステージ
年齢・性別(デモグラフィック情報)と各疾患啓発サイトでの挙動を元にライフステージを割り出し、ニーズの種別・大小を洗い出す。
だれに?なにを?:ライフスタイル
既存ユーザーの挙動を定量的・定性的に分析し、モデルとなる考え方・行動特性(サイコグラフィック情報・ビヘイビアル情報)を割り出し、適切なアプローチ・CVとは何かを実現可能性を含め洗い出す。
どこで?どうする?:ステークホルダーごとの情報発信のto bo像
ステークホルダーごとに何が求められているのか。そのなかで、企業としてアプローチすることで貢献できるものは何なのか。そのなかで、疾患啓発サイトとして果たすべき機能・役割を定義する。
これらの現状分析を踏まえた上で、SEO方針を策定すべきだと考えます。そこには、ただただ検索流入数を向上させるというような考え方ではなく、検索して来られたユーザーに企業の価値を提供するためにはどのような流入の仕方が望ましいのか?という視点で捉えるべきと考えます。
SEOや流入元の最適化の施策の効果は、半年~1年というようなスパンで見ていく必要のある領域もあります。したがって、より中長期的な企業の提供価値を見出し、定義することが求められます。
作ること自体がゴールになってしまう疾患啓発サイトではなく、継続的なアップデートにより中長期的なコミュニケーションの一環として考えられたサイト運営を目指すとすれば、このような検討ステップを丁寧に踏み、組織内外での合意形成をしていくことが必要です。
各ステークホルダーの合意形成に必要なディスカッション・文書化・コミュニケーションにお困りの方は、ぜひお声がけください。御社の事業活動の一助となれればと思います。
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